前回の続き。
今回はスターに続きどのチームも欲しがっている優秀な若手ロールプレイヤーについて。
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③ルーキー契約の延長(有望な若手編)

<クオリファイングオファー(QO)と制限付きFA>
チームのローテーションを担うレベルの選手の中でも特に注目されるのは、将来有望なルーキースケール契約勢、すなわち1巡目中位~下位指名陣の契約である。
一部のスター選手を除きルーキースケール契約を全うした選手は需要と供給の中で自分の満足できる条件を求めていくことになる。
先にも述べたがCBAの基本理念の一つは「優秀な選手ができるだけ長く1チームでプレーできるようにすること」である。 

ここで肝となるのはクオリファイングオファー(以下QO)と制限付きFAという仕組みである。
まず先に流れを説明すると、
「自チーム所属選手がFAとなった際、前所属チームはその選手が一定の条件を満たしていればその選手にQOを提示することで、その選手を制限付きFAとすることができる」となる。

まずは単語の説明から。
完全FA(制限なしFA、単にFAとも)が全チームと自由に交渉し提示額の多寡に関わらず気に入ったチームと契約を結べるのに対し、
制限付きFAは「選手は前所属チーム以外のチームとも自由に交渉できるが、その選手が他チームからのオファーに同意した場合、前所属チームは合意から2日以内にそのオファーにマッチすることで優先的にその選手とマッチした額で契約可能となる」制度である。
(http://www.cbafaq.com/salarycap.htm#Q42)

その選手の前所属チームが他チームに対し契約の優位性を持てるようにしている。
この制度により、前所属チームは他チームのオファーを見てからマッチするかしないかの判断を後出しで行うことができより柔軟な判断が可能である。

では次にQOを提示することができる選手の条件は以下のとおりである。
①ルーキースケール契約の4年間を満了した選手(3年目、4年目のTOを破棄された場合は完全FAとなる)
②NBA経験が3年以下でFAとなった選手(例えFAとなるのが1回目でなくても)
③2way契約を満了し、前シーズンに15日以上アクティブロスターかインアクティブリストに入っていた選手

①のとおり、指名順位に関わらず1巡目で指名された選手が4年のルーキースケール契約を全うした場合、元所属チームはQOを提示することでその選手を制限付きFAとすることが可能である。
②は主に2巡目指名選手やドラフト外入団選手である。
留意点としては、上の条件を満たしていたとしても、チームがQOを提示しなけばその選手は完全FAとなる。
普通は残したい選手がいればチームはその選手にQOを提示することになる。
QOの提示はNBAファイナルの終了からFA解禁日(例年は6/30)に行うことができ、一度QOを提示しても取り下げられればその選手は完全FAとなる。
よって、チームはルーキースケール契約が切れた1巡目指名選手に対し6/30までにQOを提示するかどうかの判断を求められる。

QOの額はその選手の最終年度のサラリー×約1.3~1.4(指名順位により異なる)と自動的に決められ、期間も1年で固定されているのでここにはチームの判断が入る余地はない。
ただし、直近シーズンあるいは直近2シーズン平均で41試合の先発出場か2000分出場のどちらかを満たしている選手はQOの額がアップすることがある。
この基準を「Starter Criteria」といい、例えばこの基準を満たしたドラフト10~30位指名選手はドラフト9位相当のQOを得られ、逆にこの基準を満たさなかった1~14位指名選手はドラフト15位指名相当のQOの額となる。

QOはその選手を制限付きFAとするための儀式としての性質が強いが、QOの条件で契約を結ぶことも当然可能である。
また、前所属チームは選手にQOを提示した後でも、QOの条件とは別の条件で延長契約を結ぶことも可能である。

以上を整理すればQOを提示された選手の契約パターンはおおむね以下のとおりである。
①QOの額で前所属チームと1年の契約延長(この契約後は完全FAに)
②他チームからのオファーを受け、前所属チームがマッチorアンマッチ(オファーできる契約は最低2年)
③前所属チームと新たな契約を締結(サイン&トレードの場合もこれ)

①については先ほど書いたようにQOは格安のルーキー契約に毛が生えた程度の額であり、契約期間も1年であるため、選手は基本的に②か③を目指すことになる。
怪我等によりどのチームもその選手の真価を図りかねている場合や、その選手が②や③で提示された内容に不満でQO契約後の完全FAで勝負したいと思っている場合などは①のルートで契約の1年延長を行う。
さらに、①で合意した場合その選手にはトレード拒否権が与えられ、その選手がトレードされた場合(つまりトレード拒否権を行使しなかった場合)はバード権を失うという地味に大事なルールがある。
これはとりあえずQO出せる選手には出しておいて、契約後に金銭やトレードエクセプションを得るために放出するといったチーム都合で選手を振り回すような行為を規制しているのではないかと思う。
②は他チームがその選手を欲しがった場合のパターンであり、前所属チームは他チームのオファーが割高だと思えばマッチしなくてもよい。
③のパターンも多く、基本的にチームは残ってほしいと思っている選手にQOを提示するわけであるから、他チームとの競合となる前にほどほどの条件で契約延長をまとめられればベストだ。


<制限付きFAの問題点とその対策>
以上のように制限付きFAは前所属チームが柔軟に判断することを可能とする制度だが、以下のような問題点も存在している。
①サラリーが高騰しやすい
制限付きFAの獲得を目指すチームは前所属チームにマッチされないよう少し割高な契約をオファーせざるを得ない。
よってそのオファーにマッチするしないに関わらず、不良債権選手が生み出されがちであり、あげくには他チームへの嫌がらせのように制限付きFAに割高なオファーを提示するといったケースも起こり得る。
近年でいうとアレン=クラブに4年75mil、オット=ポーターに4年106milを提示したBRN(通称ネッツ砲)などは有名である。
もちろん割高な契約はマッチしなければよいわけだが、1巡目指名権を費やし4年間手塩にかけた選手にタダで出て行かれるのも苦しいものがある。
②FA戦線への参加が遅れる
制限付きFAの獲得を目指しオファーしたはいいが、前所属チームがマッチするかの判断に最長2日は待たなければならない。
そのため、その不透明な期間はFA戦線で動きにくくなってしまう。
もし前所属チームにマッチされればプランBに移行し代わりの選手と契約せねばならない。

このような事態への対策としてはサイン&トレードが行われることが多い。
すなわち、制限付きFAと契約したいが先に挙げた問題点を避けたいチームは、その選手の前所属チームに見返りとしてドラフト権などを差し出すことで自分達の望む条件で選手の獲得を目指す。
前所属チームとしても割高なマッチはごめんだし、タダで出ていかれるよりは見返りを得られた方が良い。

MEMの事例では昨季のデロン=ライトのサイン&トレードがまさにこれである。
昨オフMEMはデロン=ライトにQOを提示しライトの残留に向け動いていたが、DALはライトを欲しがり2巡目指名権2つを出すことでライトと3年29milの契約を目指した。
MEMはタイアス=ジョーンズが獲得できそうだったこともあり、3年29mil以上でライトと契約するよりは2巡目2つを得た方が良いと判断、結果DALとのサイン&トレードが成立した。

ちなみに契約を提示した他チームとのオファーに前所属チームがマッチした場合、そこから1年間はそのチームに当該選手をトレードできないというルールがあるため、サイン&トレードの契約は前章の②ではなく③のパターンで行われなければならない。

また、MEMは2年前にカイル=アンダーソンを昨年タイアス=ジョーンズを制限付きFAで獲得しているが、こちらはサイン&トレードではなく単に前所属チームのSASとMINがマッチしなかったパターンである。
カイルは4年契約を提示したことでマッチしにくかったのではないかと思われる。
MINはPGに困っていたのでなぜタイアスを手放したのか謎であるが、もしかしたらその時からラッセルの獲得を狙っていたのかもしれない。


以上が期待の若手である1巡目指名勢の契約事情である。
次は1巡目指名選手より生き残るのが難しい2巡目指名選手の契約事情を見ていこうと思う。